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肉体を食べ 脳味噌を食べるきみに
残された救いは唯一弱者への攻撃でしかないのか
あんなにも優しく世界との妥協を模索した傷つきやすいこころは
渇き 瑞々しさを失って 堅い角質層ばかりになっていったのだろうか
 
内向する事がいけないのではない
体制への反抗が悪なのではない
まして友だちがいないことや口ごもる弱々しさに非があったわけではない
内向し 体制に嫌悪し 友だちもなく 心を閉ざすことを余儀なくされる
ぼくが そう思う
 
目に見えぬ暗い部分を引き受けて生き
狂気と戦った果てに きみは狂気そのものと化してしまったのか
植物的な疲労の極限がきみの神経をビジーに追い込んだのか
体を張ってきみの狂気を叩き伏せる肉親の愛が不足していたのか
肉親もまた疲れ切っていたのか
プツプツとたわいもなく関係は断ち切れて
誰もがきみをかえりみなくなっていたのか
きみが為したことはきみが為された仕打ちに等価であったのか
 
きみはなぜ踏みこたえられなかったか
 
そうしてまたもや報道の中の世論は危惧し始めるに違いない
明るさと健康さとを若者たちに強制するに違いない
けれども それは内なる世界の暗部に目をそむけて
自らのガンを摘出しようとはしない鈍感な連中の言いぐさであり
甘ったれた現状認識であり 人間理解であるというほかはない
そうして遠い連関の加害者であり続けていることに気づかない
 
内向者たちよ きみの殺意の刃は内なる世界の権威と権力へ
普段に向けられるべきものだ
関係の貧しさはそれだけできみの純粋の証であり青春の金字塔ではないか
きみの苦しさは周囲のかすかな均衡を繋ぎ止める力になっている
きみは落ちこぼれた存在ではなく
きみときみを含めたすべての人々の救いを発明し得る存在である
きみは人類史の過去から未来へと駆け抜け
人間の生き方についての普遍を獲得せねばならない
 
少なくともきみは弱いものに危害を与えてはならないと考えるべきである

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太古の記憶を孕んだ緑の風景の中を
四季の狭間を ゆっくりと穏やかに時は流れていく
異和としての人間はカンダタのように
自分一人のための階段を上り詰めていった
息せき切って文明の進化に挑んできた
 
もう止まれない 止まらない
 
恋も夢も最初からみんな幻だった
そう告げた人も幻の中に沈んだ
 
億の歳月を費やして 進化という名の過酷な適応を乗り越えた
夥しい死と誕生は何故か
大きな生と大きな死が一つあれば良かっただけのことではないか
大きな生の誕生と大きな死との波間に 無際限に生と死とが神にもてあそばれた
 
何故に 地上に生は宿されたのか
 
何故に 生は生を補食しはじめたか
 
何故に 上陸は実現してしまったのか
 
生は 何故に生きのび続けられたのか 生きのびたのか
 
人間らしさはなぜ生まれねばならなかったのか
 
なぜ花を愛でたのか なぜ風を美しく感じるようになったのか
 
いつから為政者は 民の心を離れていったのか
 
現代のビルの谷間に原始の心が露出する
遠い古代と遠い未来とを教示して
 
 

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疲れ切った日のある日に
ぼくは若くも美しくもなく 老いて腰をさすっていた
 
またある日「生きることはもうこりごりだ」と呟くきみの言葉に
深い衝撃を覚えていた
そこまでぼくは自分を追いつめたことはなかったのだから
 
晴れた日は ぼくは外に出て夢中で陽の光を浴びます
空腹の胃袋にうまいものが放り込まれるときのように
陽は熱となって皮膚や筋肉を通して吸収され尽くします
その心地よさ そのうまさ
冷たく緊張した心がゆっくりと弛緩していきます
 
そんなときぼくは言葉が消えていくのを感じるのです
 
それからふと我に返るように
ぼくは思考しはじめているのです
言葉がよみがえり
言葉が言葉の後を追いかけます
 
小さく老いて
きみの言葉にもたれかかろうとする自分が
そこに見えてくるのです
 
  
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むかしむかし
おじいさんとおばあさんは古代の海に楽しく暮らすお魚さんでした
何があったのか 二人は波打ちぎわから陸に上がろうとしました
けれども水面から顔を上げると とたんに息が苦しくなって
かんたんには陸に上がることはできませんでした
おじいさんとおばあさんは何度も何度も陸に上がろうと砂浜に上がっては
また波にかえることを繰り返しました
その間にお日様とお月様は何百万回も二人の上を通り過ぎました
 
ある日 おじいさんとおばあさんは自分たちの体の変化に気づきました
水の中にいなくても呼吸ができるようになってきたのです
ひれはイモリやカエルの手足のようになり 
体の中には空気を吸ったり吐いたりするための肺のふくろができていました
二人は陸を歩き また水に帰って泳ぐことができました
毎日いろいろなところに出かけいろいろなものを見て回りました
 
陸はしだいにみどりにおおわれ 光と雨とがいっぱいにそそがれました
ゆたかな食べ物にもめぐまれ
おじいさんとおばあさんの体は見る見る大きくなっていきました
いまでは恐竜とよばれる生き物の栄える時代に
おじいさんとおばあさんもまた恐竜となって生活することになったのです
けれども幸せな日々は長くは続きませんでした
地球のあちこちでばくはつがおこり 地面がまっぷたつにさけてはなれていったり   大きなあわのようにじめんがもりあがって たくさんの大きな山々ができたりしました
この地球の変化で 気温はきゅうげきに下がりました
恐竜たちは寒さの中でばたばたとたおれていきました
 
 
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なすべき何事かがたぶん見つからない
未来まで
なす事はなすべき事の外にあると
ぼくたちには口にすることがためらわれている
すべてを疑うこと
なすべき事を発見する前にそれがなければならない
 
ぼくたちは三度三度の食事と
暖かい住まいと
着飾るための洋服とを与えられた
ぼくたちの精神には感謝と絶望的な道程への声にならない呻きが閉じこめられた
 
組織に所属させられ
組織に殉じなければならないことはゴメンだ
けれども今となってみればどこもかしこも組織だらけで
完全に逃れて生きていくことはできない
何食わぬ顔であいさつをして
ぼくたちの命と心はきりきりと軋む
どこにも安住の地が求められない
本当は
きみたちは間違っているといいたいのだ
 

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人類の夜明けから傷ついてきた者たちの遺伝と系譜とは
今も引き継がれていて
正義や理知や善や愛といった言葉からは隔離され続けてきている
差別してはいけないと言うきみに
実は最も差別を生み出す根源の精神の有り様をぼくたちは見ている
それもまた言葉にはできないけれども
そうして未来永劫きみたちは気づかない
醜い者たちがより醜くなっていくそのシステムをけして理解しようとはしない
ぼくたちにはきみのその澄ました顔が気に食わないのだ
その言葉 その善意の安っぽさが腹立たしいのだ
 
悪や醜を切り捨てていくあり方は間違っていると
疲れ切ったぼくたちの唇から漏れてくる言葉がある
  

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30億年あまりの昔から
生命とよばれる現象は夥しい生き死にをくり返し
いったい何をこの地球上に付け加えてきたというのだろうか
ぼくたちの祖先もまた生き死にの中からかろうじて種を残し
現在へと至る
受け継がれてきたものは 畢竟喜びと悲しみと恐怖ばかりだ
 
単細胞の生死から人類の生死まで
生死は等価であるか
地球の大きな生と死に内蔵する それはあまりに小さな物語に過ぎないか
ひとつの大きな生と死とが約束されたものなら
無数の生と死とは意味のないものではないのか
 
神が在るものならば問いたい
生命誕生以来の無数の生と死とは何のためにもたらされたのかと
今も刻々と繰り返される大小さまざまの生と死と
それはまるで電子の明滅に過ぎない乾いた現実であるか
 
人間の抱くちっぽけな苦悩
その切実さを神は知らない
絶滅する未来に向けて蟻塚を築き上げるただそれだけの営為
観念など初めから無かったに等しい人間だけの夢のまた夢
 
けれども今日もまた生きなければならない
人間に何かを期待するからでなく
自然の一部としてその生き死にに殉じたいからだ
  
 
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学校が嫌いだ
学校の中途半端な善や正義や真の装いとお仕着せとが嫌いだ
 
たかだか社会の常識
そしてそれは国家のイデオロギーに染まった善や正義や真にしか過ぎないのに
<絶対>であるかのように吹き込まれていくそのシステムが嫌いだ
 
国家とは時々の政府機関であり秩序の維持を優先するものだ
真実の民意とはかけ離れたものだと思うのに
またしても民意は戦時下の統制に唯々諾々と従うように
大きな声の色を真似て自らの口から為政者の論理を発声する
学校はそんなところだ
そうしていつの時代にも社会参加のための教え込みが教育であり
それが「子どものため」だと言い続けてきた
 
学校では差別とか階層とかが再生産される
成績や意欲の面で先生の目にかなうものが評価され
子どもたちはその目に従って上昇したり下降したりする
知識や技能を身につけることに抵抗の無かった者たちが
また知識や技能を生活の糧としうる者たちが
学習をまた生活を指導しているのである
極端に学習能力の劣るものやつまずいて背中をみせる者たちの心なんて
永久に分かる筈なんてないさ
今どき教員なんて最低の商売にすぎないと自覚するものなどはいない
誰も彼もが中流のお人好しばかりなんだ
そういう連中が思いやりを口にする
人や環境へのやさしさを説く
できなくても分からなくてもそれなりに意欲を持ち
努力する姿勢を維持しなさいと言う
馬鹿なことを言っちゃいけねえ
職場で特殊学級出の娘は男に誘われるのを待っていた
娘をだまして抱いた男は君たちよりはましだった
中卒の男の子は通信教育をしていたが遊んでばかりいた
大卒のぼくよりはるかに仕事に長けていた
ストリッパーは人生って奴を見つめ演じて見せてくれていたよ
騙しも盗みもそこそこにあり不倫や輪姦もあった
出世のための処世も見せられ
会社に捨てられる男たちの姿もあった
もともときみたちは人生の教師でもなんでもない
 

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さびしい町へ さびしい村へ
静かに落ち着いた 着実なくらしの中へ
行きたい
 
火を囲みたい
数人のそれは家族のような部族のような者たちの中で
時に微笑み また柔らかな声を発する
炎の中に記憶をたどり
炎が細胞の中の記憶をあぶり出し
ぼくたちはただひたすら反芻するだろう
 
けしてそれは昔がよかったというのではない
けしてそれは競争に疲れたからと言うわけではない
さびしいものたちの中にぼくの魂のふるさとがあると気づいただけのことだ
ぼくの魂の由来や由緒 家系図といったものを
どうしても直感するのだ 
そこに安らぎを感じるのだ
 
さびしい町へ さびしい村へ
近代の爪痕を残さぬその風景へ
いや 近代の皮相を照射する
原像としてのきみのそばへ
行きたい
 
知は知によって非知に近づき
知から遠いことによって心を生きる
きみに出会う
物語はそこから始まるだろう
 
 
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孤独の極限は過ぎ肉体の期限も過ぎた
心の掌を合わせて風は優しく笑うばかり
 
やがて蕗のとうや土筆の子が顔を現すだろう
変わらぬ億の歳月を再現するかのように
春は春のままで今年も訪れようとしている
 
昨日まで 異常なほどの積雪が続いた
見えないものがもっと見えにくく
雪は太陽の美しい光をまぶしい輝きに変えた
ぼくの根拠は消されて
吹雪に舞ったはずの無名の人々の無数の失意と失墜とが
踏み固められた雪の下に埋もれた
春になればすべては河口を経て海へと合流し
新たな微生物を発生させるだろう
そうして 穏やかに春は来て
ぼくの寂かなこころはいつまでも地の下に閉ざされたまんまだ
大地は 何事もなかったかのように大地であり続けて
 
これから何処へ行けばいいのか分からない
観念との闘い 概念との闘いに明け暮れて
今現在を了解できたとして さて
これから何処へ行けばいいのか
 

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春になって花が咲いたら せめて一茎をいただいて
四億の歳月の幻に酔おう
皮相な人間の優越感を高らかに笑い飛ばそう
そしてきみに会いに行こう
息を詰めたきみの失語の意味するところを聞きに行こう
きみの沈黙はぼくの根拠だ
敗れるきみを何人もの人々が諦めの中で無言に見送ったことか
けれどもぼくはきみの少しの不遇と挫折感とを
真実への旅立ちのための切符を手にした
貴重な契機であると考えていた
きみには死ぬほどの苦しみが訪れるだろうけれど
それはまたきみという存在を輝かせる
メタモルフォーゼの過程でもあるだろう
 
季節に共鳴する身体が遠い風にいつまでも揺れる日に


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春の風は 小さなきみやきみの仲間たちを背中に乗せて
校庭のあちこちを駆け回る
陽は 遠くまで包み込んでは影さえも落とさない
 
ここには先人の夢の実現があるのでなければならない
たとえばそれは胎児のための子宮
原始の海の再現
人類の悲しみと苦しみと願いに開かれた時空なのだ
 
この光景から意味と関係を抜き取れば
これは心を持った動物の世界であり又先人の夢の続きとなる
生命が放つ永遠の光と輝きは今も完全に失われてはいない
 
たぶん重たいものは頭の機能の一部で しかしそれは
今あるぼくたちの願いの強さによって克服することが可能となるだろう
 
やがて
人間の精神は耐えきれない時を迎えるだろう
荒地にあって
劇的に進化を遂げるだろう
小さな群れは胎児となって面影をしのぶ
 
 
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せわしない時間の往来に
ひとりの時
眩暈する
 
ことばが異類のように
不自由な道具となる
 
原始から未来へ
どうすれば一本の道筋が構築できるのか
それは未生から未来のもっと向こうまでをイメージする想像力を問うことだ
 
ことばではないコミニュケートの仕方で
類を求める
きみの精神の苛酷さを
地表にあっては気付かれない
 
きみは酔いどれた天使にさえなりきれない
 
どこまで行っても宇宙の巨大な瞳に直視されている
砂遊びに興じる幼児に貼り付けられた
狭いポートレートの空間に閉じこめられている
 
その二次元の世界に
きみは留まるべきではないと感じている
成し遂げられない夢に朽ちても
きみは自らの身を震わせて動き出したいと願っている
 
「時」は今
雁のように何処を渡ろうとしているのか
一瞬の察知により明らかにしなければならなかった
鋭さではなく精神の強さでもって
 
知識と経験の豊富さでは決してない
生を掘り起こす
徒労と無為ととのたたかいだ
生活にすべてを注ぎ込んで
きみはその果てしないトンネルをくぐり抜けて
「世界」を手中にすることができるのかどうか
 
 
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宇宙は墓場みたいなもので
無機物の投棄場所にすぎなかった
そのゴミがぶつかり合ってやがて原始の生命が誕生したと考えれば
宇宙生命そのものが墓場に潜入したエイリアンなのだろう
 
植物も動物も
考えようによっては原始の地球に寄生したエイリアンに他ならず
その繁栄は一方で地球の無機質を浸食するものだ
 
夢のようにどうでもいい日々を生きるのに忙しい
そんなある日に思った
 
巷では忙しげな自分に同期し
その他を排除する思考が目立っている
職業や肩書きだけがその人間の証だと思いこんでいる
だが目に見えた人間や彼の話すことばは
本当は職業や肩書きが作り上げたことばや物腰にすぎないのだ
こんな重苦しい日々は実は長い人間の歴史の中で
また地球上の進化の過程でほんの一瞬の出来事にすぎない
人間が考え為す善悪などはたかがしれている
そもそもがゴミから生まれた存在ではないか
無機物から無機物に帰る
ひととき地表に現れ暴虐無人な振る舞いをして
無責任に消えていくエイリアン
同胞の争いを止められない
人の数だけ生起する苦悩の数々を癒せない
殺人も戦火もきみの魂に刺さったとげも全て他人事だと高をくくっている
すでに起きてしまったこと
現に今起きつつあること
明日起こるかもしれないこと
全てに対してあまりにも無力であることを知れ
そうして突き詰めて考えれば
自分の生活を守るために全ての精力は注がれている
それが悲しみのエイリアン 
きみの姿だ
 
 
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長引く夏風邪のように
歳月は翳ったままぼくに落ちてくる
詰めた息をどこで大きく吐き出しまた吸い込めばいいのか
苦しくなって浮き上がってみるものの
遠慮がちに小さく呼吸してまた息を詰めることを繰り返す
 
がまんができたのはきみの善意があったからだ
自分を越えてきたのはきみの悲劇があったからだ
そうして小心なぼくの生き方は決して悪くはなかったはずだ
それどころかぼくにとっては常に生死に向き合った冒険の連続であった
たとえばヒマラヤ山頂登山 たとえば北極縦断
たとえば太平洋の単独渡航
 
「生きることはもうたくさんだ」と
残念だが ぼくはぼくの冒険のたびに思ったものだ
きみに知られなかったことが寂しいのはない
果てしのない闘いの後にも果てしのない闘いが待っていることが辛いのではない
ましてや 改まらない世界に嫌気がさしたというわけでもない
ただ 向こうからの視線に答えて
自ずから「もういいですよ」という気持ちになるというだけのことなのだ
 
「いきることはもういいです」
たのしいことはたくさん経験させていただきました
できる限りの精一杯さで生きることができました
たくさんのことを思い考えました
愛や慈しみの心を精神の器いっぱいに満たすこともできました
ぼくにできることは考えられる限りにおいてやり通すことができました
 
ぼくは誓う
ぼくはきみを愛した
死に瀕したきみを愛しあらゆる人為的な不幸がこの世界から無くなることを祈った
ぼくはぼくの仕方で戦った もしかして数少ない伝説の戦士の一人だった

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